徳島大学大学院医歯薬学研究部 医学域 医科学部門 生理系 薬理学分野
Department of Pharmacology, Tokushima University Graduate School of of Biomedical Sciences
現在の研究テーマ
以下の研究テーマを推進しています。
(1)鉄の病態生理学意義の研究
疾患病態における鉄代謝変化と鉄制御による治療について動物モデルの解析により、鉄除去薬の血管新生促進作用(Ikeda, et al. Atherosclerosis. 2011)、酸化ストレス抑制による抗肥満・糖尿病作用(Tajima and Ikeda, et al. Am J Physiol Endcrinol Metab. 2012)、抗腎線維化作用(Ikeda and Ozono, et al. PlosOne 2014)、また食餌性鉄制限による糖尿病性腎臓病(Ikeda and Enomoto, et al. Am J Physiol Renal Physiol 2013)やタンパク負荷腎間質障害(Ikeda, et al. Sci Rep 2017)の抑制効果を明らかにした。鉄の酸化ストレス―HIF-2αを介したエリスロポエチン発現制御に関与(Oshima and Ikeda, et al. Lab Invest. 2017)、鉄過剰による骨格筋の分解促進(Ikeda and Imao, et al. J Trace Elem Med Biol. 2016)や分化抑制(Ikeda and Satoh, et al. FASEB J. 2019)の分子機序を明らかにした。また、肥満・糖尿病の発症・進展にはマクロファージ由来の鉄ストレスが主要な役割を担っていることを報告した(Ikeda and Watanabe, et al. Diabetologia. 2020)。シスプラチン腎障害にはフェロトーシスが関与することを明らかにした(Ikeda, et al. J Trace Elem Med Biol. 2021)。また、肝臓病、腎臓病、心臓病においても、マクロファージ鉄ストレスが病態に関与している知見を得ている。
・鉄に関する研究(1・2)
・エピジェネティック制御機構の研究(3)
・和漢医薬品の研究(4)
・低重力環境における鉄代謝変容(5)
(2)生体内鉄代謝制御機構の研究
女性閉経後、慢性腎不全、高血圧の各種の病態モデルを用いて、女性ホルモンエストロゲン(Ikeda, et al. PlosOne 2012)、尿毒素(Hamano and Ikeda, et al. Ikeda, et al. Nephrol Dial Transplant. 2018)、アンジオテンシンII(Tajima, et al. Eur J Nutr. 2015)が肝臓ヘプシジン制御を介して全身鉄代謝変化を引き起こすことで、異所性鉄蓄積の原因となることを報告した。胃酸分泌抑制薬プロトンポンプ阻害薬は鉄欠乏を引き起こすが、その機序としてヘプシジン産生亢進により消化管鉄吸収を抑制することが明らかにした(Hamano and Ikeda, et al. Tocixol lett. 2020)。
(5)低重力環境における鉄代謝変容の研究
来たるべき宇宙時代において、微小重力,低重力の環境における生体恒常性変化を解明することが必須である。鉄は必須微量金属元素であるが、宇宙環境では貧血や宇宙放射線などによる鉄が触媒する酸化ストレスが増悪するといわれている。そのため、NASAでは鉄摂取量を定めている。
JAXAマウスサンプルシェアに採択され、低呪力環境におかれたマウスの消化管、胸骨肋骨を用いて、消化管鉄吸収の変化について解析を行っている(投稿中)。この研究で得られた結果から、寝たきり状態における病態解析への応用が期待できる。
(3)心臓病におけるエピジェネティック制御機構の研究
心不全はあらゆる心疾患の最終像であり、今後高齢化社会に伴い心不全患者の増加が危惧されている。よって、心不全発症に至る病態機構の解明は新規治療法につながる重要な課題である。クロマチンを構成する主要なタンパク質ヒストンの翻訳後修飾は多様な生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たしている。心疾患において、心肥大から心不全への移行過程ではヒストンのテールドメインから球状ドメインへとアセチル化の部位が変遷することを見出した (Funamoto M et al. Int J Mol Sci 2021) 。心肥大から心不全の移行スイッチとしてヒストンの翻訳後修飾が重要であるとの仮説を立てて、解析をすすめている。
(4)和漢医薬品(漢方薬・生薬)の新規作用と分子機序の研究
日本伝統医学である漢方は、中医薬を基に日本の風土・気候や日本人の体質にあわせて独自の発展を遂げてきた。漢方医学で重要な役目を担うのが漢方薬である。漢方薬による人間が本来有する自然治癒力を高める概念を基盤に、経験則の積み重ねに基づいて症状に応じた生薬を組み合わせで処方が創出されている。構成する複数の生薬の組合せにより、ある生薬の薬効が増強されたり毒性が抑制されたりして、有効性や安全性が大きく変化する特徴がある。しかし、科学的エビデンスは乏しいのが現状である。本研究課題では、様々な疾患モデルを用いて漢方薬の新規作用と分子機序を明らかにして、漢方薬のエビデンス構築につながる基礎知見を集積する。呼吸器疾患に対して使用されている清肺湯が、炎症・酸化ストレス抑制を介してシスプラチン誘発性腎障害を軽減でき、構成生薬成分のうち竹茹による作用であることを明らかにした(Ikeda, et al. Phytomedicine. 2022)。また、体内水分調整作用を持つ五苓散が、炎症、酸化ストレスを抑制し、慢性腎臓病を抑制することを見出した(Suenaga and Ikeda, et al. J Pharmacol Sci. 2023)。また、心臓病やフレイルに対する効果のある漢方薬をいくつか見出している(未発表データ)。